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映画『レスラー』~ミッキー・ロークが名実ともに復活したダーレン・アロノフスキー監督による感動作

ⓒ2008 OFF THE TOP ROPE, INC.AND WILD BUNCH.

2008年/アメリカ/109分
同年日本公開
原題:THE WRESTLER
監督・製作:ダーレン・アロノフスキー
脚本:ロバート・シーゲル
出演:ミッキー・ローク/マリサ・トメイ/エヴァン・レイチェル・ウッド

映画『レスラー』ストーリー(あらすじ)

かつて人気プロレスラーとして一世を風靡したランディは、金も家族までも失い、いまではアルバイトをしながらどさ回りのリングに立っている。そんなランディに20年前に名勝負を演じた相手との記念試合が持ちかけられるが、その矢先、ランディは心臓発作で倒れてしまう。孤独と不安に苛まれたランディが気持ちを吐露できるのは、ストリップバーのダンサー、キャシディだけだった。キャシディは弱気になっているランディに、疎遠になっている娘に会いに行くようアドバイスする。

映画『レスラー』レビュー(感想)  

大スターだったプロレスラーが年を取り、落ちぶれて、それでもリングにしがみついている。公開当時はどうしても、俳優として一度は栄光を極めながら、その後は鳴かず飛ばずだったミッキー・ロークの実人生と重ねて見てしまう映画だった。おそらく制作陣にもそのような意図があったのではないか。日本でも、国技館での“ねこパンチ”以降、株が大暴落していたロークだったが、彼が起死回生をかけた映画として本作は人々の興味をかき立てた。

そして、この映画はけっこうな評判を呼んだ。この作品とミッキー・ロークは世界じゅうで数々の映画賞を受賞し、ロークはふたたび脚光を浴びることになった。

ミッキー・ロークの復活という狂熱が遠くに過ぎ去ったいま、あらためて『レスラー』を見た。この作品にまとわりついていた先入観や装飾をとっぱらった『レスラー』は、やっぱりほんとうにいい映画だった。

ミッキー・ロークが素晴らしかったのは言うまでもない。レスラーを演じるために鍛えられた肉体、プロレスシーンの迫力、それだけでもう、ロークのこの映画への意気込みが苦しいくらいに伝わってくる。ボクシングの試合なのにぶよぶよのお腹で、ねこパンチを繰り出したかつてのロークとは大違い。

若さや栄光が過去のものとなってしまった哀しみ。疎遠になっていた娘との関係を取り戻そうとする健気さ。これらはセクシーシンボルとしてもてはやされていた頃のロークには決して出せない味だったろう。

出演作、ヒット作はほかにもあるが、この作品が残せたというだけで、ロークの俳優人生は大成功だったといえると思う。

また、今回『レスラー』を見直してみて、その存在感に魅きつけられたのが、ストリップバーの踊り子キャシディを演じたマリサ・トメイだった。

彼女も『いとこのビニー』(1992年)という作品でアカデミー助演女優賞を受賞したあとは、長く低迷の時期にあったようだ。本作は、ローク同様に、マリサ・トメイにとっても起死回生をかけた映画だったのだ。

それにしても、すでに名のある女優がここまで大胆な演技に挑戦するのは相当な覚悟が必要だったはずだ。ストリップシーンの見事さたるや、これもう本物じゃん! と叫びたくなるレベル。ハリウッドではヌードシーンの代役もあるらしいので、どこまでトメイ本人が演じているのかはわからない(全部本人かもしれないし、そうではないかもしれない)。かりに一部は代役を立てていたとしても、生半可な女優魂ではこの役は引き受けられないだろう。引き受けるトメイもすごいが、この芝居をオスカー女優に求める監督の度胸もすごい。この作品のあと『ブラック・スワン』を撮った、ノリにノっているダーレン・アロノフスキー監督だからこそなせる業だったかもしれない。

しかし、マリサ・トメイが素晴らしいのは、大胆なヌードシーンを演じたからではない。子どもを育てるためにストリップバーに勤め、ランディのことを本気で心配し、子どもがいるがゆえに、ランディが客であるがゆえに、ランディとの関係に踏み込むことができない踊り子キャシディの葛藤を見事なまでに表現しているからだ。昨日今日の女優さんならこうはいかない、これまでがあっていまがある。そんなことを思わずにはいられないトメイの演技なんである。

ロークとトメイはこの映画でそれぞれアカデミー主演男優賞、助演女優賞にノミネートされている。ふたりとも受賞はならなかった。

ブルース・スプリングスティーンによるエンディング曲「The Wrestler」が沁みすぎて

『レスラー』を最初に見たのは、いまはもうなくなってしまった吉祥寺バウスシアターだった。本編が終わり、エンドロールとともにブルース・スプリングスティーンの哀愁に満ちた歌が流れはじめたとき、なんともいえない感傷的な気分になった(すぐその気になる性格なのだ)。

後日、カラオケに行ったとき、採点モードでその曲、「The Wrestler」を歌った。採点モードだったのは、連れが採点好きだったから。歌い終わって愕然とした。その月に「The Wrestler」を歌ったのは、私を含めて全国で3人だけだったからだ。あんなにいい映画だったのに。こんなにいい曲なのに。3人中、私が何位だったかは覚えていない。それが『レスラー』にまつわる忘れられない思い出です。

☟映画『レスラー』予告編

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