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2022年/アメリカ/PG12/117分
2023年日本公開
原題:THE WHALE
監督:ダーレン・アロノフスキー
原案・脚本:サミュエル・D・ハンター
出演:ブレンダン・フレイザー/セイディー・シンク/ホン・チャウ/タイ・シンプキンス/サマンサ・モートン
映画『ザ・ホエール』ストーリー(あらすじ)
かつて家族を捨て、同性の恋人アランを選んだチャーリー(ブレンダン・フレイザー)だったが、アランを亡くしたショックから過食症となり、いまや体重は600ポンド(約270キロ)、大学のオンライン講座で生計を立てているものの、もはや自分で動くこともままならない。アランの妹で看護師のリズ(ホン・チャウ)の助けを借りて、なんとか生活しているチャーリーだったが、ある日、心臓発作に見舞われ、自身の死期が近いことを悟る。リズは入院治療を強くすすめるが、チャーリーはそれを拒み、離婚以来会っていなかった娘のエリー(セイディー・シンク)との関係修復に残された時間を捧げることを決意する。
映画『ザ・ホエール』レビュー(感想)
舞台劇の映画化ということで、物語はチャーリーのアパートだけで進行していきます。ほとんどのシーンで雨が降っているのは、元の舞台劇でもそういう設定だったのか、アロノフスキー監督こだわりの演出なのか。
『ブラック・スワン』(2010)にしろ『マザー!』(2017)にしろ、追い詰められた人間を描くの大好き、追い詰められた人間大好物のアロノフスキー監督が、本作で題材に選んだのは、恋人を失ったショックで過食症になり、自力で歩くこともできないほど太ってしまった男。
チャーリーの限度を超えた肥満は、自分ではどうにもならないことの象徴なのでしょうか。ここまで太っていなければ、彼の境遇にこれほどの悲劇性は生まれていなかったでしょうし、チャーリーの体重の分だけ、物語は深刻さを増しているようです。
玉座に鎮座する『スターウォーズ』のジャバ・ザ・ハットのような、パンダがむしゃむしゃと笹を食べているときのような、そんな姿勢と体形で、ずっとソファーに座りっぱなしのチャーリー。
自分で歩くこともできない、マジックハンドを使わないと落としたものも拾えない、それでも、チーズたっぷりのピザやフライドチキンなど、食べ過ぎ注意のものばかりをドカ食いするチャーリー。
地獄の肥満ロードを突っ走り続けるかのようなチャーリーの生活を、アロノフスキー監督は丹念に描いていきます。
しかし、映画を見ながらふと思いました。これは見方によっては悲劇の仮面をまとった喜劇ではないのかと。幸福の裏側には不幸が張り付いている。逆もまた真ではなかろうかと。
桁外れの体重の重力によって悲劇を引き寄せているチャーリーの身体は、その途方もない質量、体積と同じだけ喜劇の塊ではないかと。
次元のちがう領域に踏み込んだチャーリーの肉体と、その肉体がもたらす生活は、大いなる悲劇であると同時に大いなる喜劇でもあると。
哀しいけれど、もはやばかげている。滑稽でさえある。笑ってはいけないけれど、笑うしかない。そして、やっぱり哀しい。
ひょっとしてアロノフスキー監督も似たようなことを感じていたのではないでしょうか。降り続く雨は、喜劇に転びかねないこの物語を、なんとか悲劇の側につなぎとめておくために必要な装置だったのではないかという気もしてきたのでした。
いや、この物語が喜劇性をはらんでいると感じられたのは、そもそも人間とはそういう存在だからなのか。哀しくて、滑稽。そして、その哀しさ、滑稽さは、その人物が一生懸命になればなるほど、際立っていくのではないか。しかし、それでも、それゆえに、人間という存在は尊く、愛おしい。
アロノフスキー監督は、そのことを見事にあぶり出して見せてくれたのかもしれません。
本作で、チャーリーを演じたブレンダン・フレイザーはアカデミー賞主演男優賞を受賞。長らく表舞台から遠ざかっていたフレイザーのカムバック作品となりました。
この構図は『レスラー』(2008)でミッキー・ロークが復活したときと同じで、アロノフスキー監督の手腕を感じさせます。
この作品はアカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞も受賞。チャーリーの存在感ありすぎる身体はやっぱり特殊メイクだったんですね。いや、そうでしょうけど、不自然な巨体がとても自然で(?)、メイクによるものだとは到底思えませんでした。
あと、チャーリーが娘を思って、「人を大切にして、人から大切にされる、いい人生を送ってほしい」と言う場面があるのですが、父親としての心情があふれていて、本当にいいセリフだなと思いました。
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