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映画『愛と追憶の日々』~母と娘の切なくもかけがえのない日々を描いた人間ドラマの傑作

Paramount Picturesツイッターより

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1983年/アメリカ/132分
1984年日本公開
原題:Terms of Endearment
監督・脚本・製作:ジェームズ・L・ブルックス
出演:シャーリー・マクレーン/デブラ・ウィンガー/ジャック・ニコルソン/ジェフ・ダニエルズ/ジョン・リスゴー

『愛と追憶の日々』ストーリー(あらすじ)

未亡人のオーロラ(シャーリー・マクレーン)は、一人娘のエマ(デブラ・ウィンガー)に対する愛情が強すぎるあまり、エマの結婚に反対し、結婚式に出席することさえしない。エマが家を出ていき、一人になったオーロラは、それまで毛嫌いしていた隣人、大酒飲みで女たらしの元宇宙飛行士ギャレット(ジャック・ニコルソン)の存在が気になりはじめる。

『愛と追憶の日々』レビュー(感想)

大女優シャーリー・マクレーンと新進女優デブラ・ウィンガーが母娘として共演

※以降、ストーリー展開に触れています。

本作の脚本・監督はジェームズ・L・ブルックス。のちに手がけた『恋愛小説家』(1997年)も名作ですが、その十数年前に撮ったこの映画一本で、彼は“人間ドラマの巨匠”と呼ばれるに値すると思います。

映画は、母親がベビーベッドに眠っている娘をのぞき込み、息をしていない!? 死んでいる!と大騒ぎをするシーンで始まります。娘を大切に思うあまりの取り越し苦労なのですが、この母と娘の切なくも宝石のような人生の日々を描いたのが本作です。

娘に深い愛情を抱いているものの、その結婚相手にまで難癖をつけ、結婚式を欠席するような、頑固で我が道を行く母オーロラを演じているのは、シャーリー・マクレーン。『アパートの鍵貸します』(1960年)、『愛と喝采の日々』(1977年)などに主演した大女優ですが、ひょっとしてヤングな映画ファンにはもはやちと馴染み薄? 自身の神秘体験を記した『アント・オン・ア・リム』という本を出版して、日本でもけっこうなベストセラーになったり、俳優ウォーレン・ベイティのお姉さんでもありますね、はい。 

娘のエマ役にはデブラ・ウィンガー。リチャード・ギアをスターダムに押し上げた『愛と青春の旅だち』(1982年)でヒロインを演じていた女優さんです。余談ですが、本作の邦題が『愛と追憶の日々』なのは、大ヒットした『愛と青春の旅だち』にあやかりたかったというのも多分にあると思われます。同じデブラ・ウィンガー出演作なので、『愛と青春の旅だち』の勢いに乗っかろうという思惑があり、『愛と○○のナントカ』というタイトルにしたかった。そこで、必死に(?)ひねり出したのが『愛と追憶の日々』だったと(推測)。当時の日本での興行収入はわかりませんが、この映画も高い評価を受け、一時期は洋画の邦題に枕詞のように「愛と○○の」がくっついていたのはよく知られた話です。ちなみに原題の“Terms of Endearment” は、honey(ハニー)やbaby(ベイビー)、sweetheart(スウィートハート)のような、親愛なる人への呼びかけの言葉のことだそうです。

『愛と青春~』で青春スターの座に駆け上がったデブラ・ウィンガーは、この『愛と追憶~』でその地位を揺るぎないものにしたといえるでしょう。女優のロザンナ・アークエットが2002年に監督したドキュメンタリー映画では、34人ものハリウッド女優が、女性として、母として、女優としての生き方を語っていますが、そのタイトルは『デブラ・ウィンガーを探して』(原題=“Searching for Debra Winger”)です。この一事をもってしても、デブラ・ウィンガーが青春映画のヒロインとして、いかに象徴的な存在であったかがわかります。

ニヒルなジャック・ニコルソンの存在が物語のスパイスに

オーロラとエマの母娘の物語もさることながら、本作で重要なスパイスとなっているのが、オーロラの隣人であり、元宇宙飛行士のギャレットの存在。オーロラは、酒飲みで女ぐせのよろしくないギャレットを毛嫌いしていますが、何年も隣人として過ごしたある日、なぜか勢いでランチデートをすることに。そのランチの席で「私、飢えてるの。変な意味ではないのよ」(字幕翻訳:戸田奈津子)とオーロラ。するとギャレットが「牡蠣でも食べる?」と牡蠣をフォークに突き刺してオーロラの目の前に差し出す。良い子のみんなにはちょっと難しい意味深なシーンです(笑)。さらにギャレットが「君には酒が必要だ。クモの巣をはらうんだよ」とたたみかけると、オーロラはそれを受けて「バーボンをワイルドターキーで!」とウェイターに注文。ともすれば下品になりかねないきわどいやりとりですが、シャーリー・マクレーンとジャック・ニコルソンが演じると、なんとも粋でおしゃれ。とくに全篇にわたってのニヒルでありながらユーモラスなジャック・ニコルソンの演技は、後半つらい展開になる物語が陰鬱に流れるのを救っています。

青春を取り戻すかのようなオーロラとギャレットの愛の日々。しかし、根無し草が性分のギャレットは、「そろそろ、ただの隣人に戻ろう」とオーロラに別れを告げます。同じ頃、エマがガンであることがわかるのです。

すべては愛とともに発せられた言葉

おそらくは前述の理由によって邦題は『愛と追憶の日々』となった本作(あくまで推測)。原題の “Terms of Endearment”は、「ハニー」や「ベイビー」など、愛する人への呼びかけの言葉をさすことはすでに記しました。そして本作には“Terms of Endearment”と同じ、というかそれ以上の、親愛なる人への言葉があふれていました。

ギャレットがオーロラに寝物語に聞かせる宇宙の話…。

入院しているエマに付き添っているオーロラ。そこにふいに現われるギャレット。オーロラはギャレットに抱きついて「あなたがこんなにいい人だなんて」…。

エマが死の床に二人の息子を呼び寄せ、最後に語って聞かせる言葉。「女の子に優しく」「おまえは本当はママを愛している」…。

エマの葬儀のあと、エマに素直になれなかった彼女の長男を自分の家のプールに誘うギャレット。「いまはまずいんじゃない?」と返す長男に、「かまうもんか。宇宙遊泳で身につけたクロールを見せてやる」とギャレット…(ジャック・ニコルソンはもとが悪人顔だからよけいになのか、さりげない男の優しさを演じさせたら、これほどハマる俳優もいません)。

こうした場面のひとつひとつ、語られる言葉のひとつひとつが胸に迫ります。

母親に憎まれ口をたたいても、娘のだんなをこきおろしても、下品なジョークばかりでも、愛に彩られた日々は、すべて愛の言葉とともにあった。そして、それらの日々は、言葉は、エマが死んでも決して消え去ることはない。

見終わって原題の“Terms of Endearment”に心から納得するとともに、事情がかいまみえるっぽかった邦題も、とってもいいタイトルなんじゃないかと思えたのでした。

ニヒルさ、ユーモアに加えて、可愛げでも魅了する、
もはや“ずるい”の領域に達したジャック・ニコルソン出演、
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