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映画『ラスト・ムービースター』~名優バート・レイノルズの俳優人生の総決算にふさわしい奇跡の遺作にして最高の主演作

© 2018 DOG YEARS PRODUCTIONS, LLC

2017年/アメリカ/104分
2019年日本公開
監督・脚本:アダム・リフキン
出演:バート・レイノルズ/アリエル・ウィンター/クラーク・デューク/エラー・コルトレーン/ニッキー・ブロンスキー/チェヴィー・チェイス

映画『ラスト・ムービースター』ストーリー(あらすじ)

かつてハリウッドで名を馳せた往年の大スター、ヴィック・エドワーズ(バート・レイノルズ)のもとに、ある映画祭から一通の招待状が舞い込む。それは、デ・ニーロやイーストウッドも受賞者に名を連ねる功労賞を授与したいというものだった。気乗りしないヴィックは、友人に説得され、映画祭への参加を決めるが、空港で彼を待ち受けていたのは、リムジンではなく、ボロボロの車とヘソ出しファッションの運転手リル(アリエル・ウィンター)だった。

映画『ラスト・ムービースター』レビュー(感想)

本作で、主人公ヴィックはおもに二人の若者に向き合う。ひとりは、映画祭を主催する兄からヴィックの運転手を務めるよう命じられたリルであり、もうひとりは過去の自分自身、若きヴィック・エドワーズである。

ヴィックは、浮気者の彼氏に翻弄されているリルの姿を通して、かつての若くて、愚かだった自分を思い出す。「あまり調子に乗るな」「必ず痛い目に遭う」「大事な選択を何度も誤ることになる」。追想のなかで老ヴィックは若いヴィックに忠告するが、それらはことごとく無視される。それは当然だ。調子に乗り、間違った選択をし、痛い目に遭ってきた結果が今のヴィックなのだから。

だからこそ、現実に目の前にいる、若さの真っ只中にあるリルに対する言葉は、自らの後悔の分だけ真剣なものになる。自殺を考えたことがあるというリルに対して「自殺は最も身勝手な行為だ。絶対だめだ」とたしなめるヴィック。「困難があっても、自力で立ち、ゆっくり前進しろ」「自分らしさを貫け」。ヴィックからリルへの言葉は、失敗を繰り返して人生の終幕にたどり着いた老人から、この先、山ほど過ちを重ねていくだろう若者への、本当の愛がこもった、これ以上ない贈り物だ。

バート・レイノルズは、ジョン・ヴォイト(アンジェリーナ・ジョリーのお父ちゃん)と共演した『脱出』でスターの地位を確立、『トランザム7000』シリーズや『キャノンボール』シリーズ等に主演してハリウッドの頂点をきわめたものの、その後は順風満帆とは言い難い役者人生だった。しかし、それもむべなるかな。なんとバートくんはビッグオファーを断わりまくりなのだ。本作の公式ホームページによれば、007のジェームズ・ボンド役や、『スター・ウォーズ』のハン・ソロ役、ジャック・ニコルソンがオスカーを獲った『愛と追憶の日々』の元宇宙飛行士役まで断わっていたらしい。

フィクションと現実が絶秒にリンクしている本作では、ずっと成功し続けている役者の代表例ということなのだろう、そのジャック・ニコルソンやクリント・イーストウッド、ロバート・デ・ニーロらの名前が何度も登場する。さらなる栄光が約束された映画への出演依頼を断り続けたバート・レイノルズが、ニコルソンやイーストウッドを引き合いに出して彼自身をカリカチュアライズしたような映画への出演をどのような思いで引き受けたのか。

もし、ボンドやハン・ソロ役を引き受けていれば、バート・レイノルズの俳優人生はまた違ったものになっていたはずである。しかし、その場合、本作『ラスト・ムービースター』は誕生していなかったであろうし、当然、私たちがこの映画を見ることは叶わなかった。仮に時を巻き戻せるとして、バート・レイノルズがそれでも『007』シリーズや『スター・ウォーズ』シリーズへの出演よりも、本作へ至る道を選ぶのかは知る由もないことだが。

ただひとつ言えるのは、この映画はバート・レイノルズでなければ成立しなかっただろうということだ。往年の大スター、ヴィック・エドワーズという役に、これほどまでの哀愁と慈愛、命を吹き込むことができる俳優は、バート・レイノルズをおいてほかにいない。今後もし、ジャック・ニコルソンやクリント・イーストウッドが似たような役を演じることがあったとしても、ずっと栄光の中にあり続けた彼らには、これほどまでのユーモア、哀しみ、包容力でもって、演じることはできないのではないか。

劇中、セリフでイーストウッドやニコルソンの名を口にするバート・レイノルズは、案外、自信と確信に満ちていたのかもしれない。「どうだい、この役は、俺にしかできないだろう」と。

2018年9月、この映画の公開後、ほどなくしてバート・レイノルズはこの世を去った。亡くなったことは残念だが、彼の俳優人生にこれ以上の幕引きはないようにも思える。『ラスト・ムービースター』という本作のタイトルどおり、彼は永遠の(lasting)ムービースターとしてその名を刻んだのである。

☟映画『ラスト・ムービースター』予告編

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