ⓒ2017 InterActiveCorp Films, LLC./Merie Wallace, courtesy of A24
2017年/アメリカ/PG12/94分
2018年日本公開
原題:Lady Bird
監督・脚本:グレタ・ガーウィグ
出演:シアーシャ・ローナン/ローリー・メトカーフ/トレイシー・レッツ/ルーカス・ヘッジズ/ビーニー・フェルドスタイン/ティモシー・シャラメ/オディア・ラッシュ/ロイス・スミス
映画『レディ・バード』ストーリー(あらすじ)
“中途半端な田舎町”サクラメントでカトリック系の高校に通うクリスティン(シアーシャ・ローナン)は、自ら“レディ・バード”と名乗り、学校でも家でもそれで押し通している。町の退屈さにも、母マリオン(ローリー・メトカーフ)の口うるささにもうんざりしているクリスティンは、ニューヨークの大学に憧れているが、経済的事情もあり、マリオンは地元の大学を強くすすめてくるのだった。母への愛と反抗心のはざまで苦しみながらも、クリスティンは高校生なりにさまざまな手立てを講じて、自身の希望を叶えようとする。
映画『レディ・バード』レビュー(感想)
この映画は「カリフォルニア州の快楽主義を語る人は、サクラメントのクリスマスを知らない」(J・ディディオン)というエピグラフから始まる。
そして一発目のセリフがクリスティンの「私、サクラメント出身っぽい?」だ。
監督グレタ・ガーウィグの半自伝的映画である本作は、彼女の出身地であるサクラメントへの愛にあふれている。彼女の分身であるクリスティンに「文化がない」「死ぬほど退屈」「中途半端な田舎」と言わせているが、それもこれも愛あればこそ。憎しみは愛情の裏返し。「嫌よ嫌よも好きのうち」と西野カナ先生も歌ってらっしゃいます。
サクラメントはカリフォルニア州の州都であり、その名前は「秘蹟」と訳される、神の恩恵に与るキリスト教の儀式に由来する。そのサクラメントでクリスティンはカトリック系の高校に通っている。
クリスティンをとりまく人々のなかで、最もカトリック的な人物として描かれているのは母マリオンである。「マリオン」は、聖母の名であるマリアが変化したものだ。そして「クリスティン」は、キリストに従う者を意味する名前である。
映画の冒頭、大学見学の旅からの帰路、マリオンとクリスティンが車の中で聴いているのは、キリスト教に強い影響を受けているとされる作家、スタインベックの『怒りの葡萄』の朗読テープである。
クリスティンが、失業中の父親ラリーは鬱(うつ)なのかとマリオンに尋ねる場面。「お金は人生の成績表ではない」「“成功”にはそれ以上の意味はない」と応じるマリオン。いいセリフだと思ったが、これも労働や蓄財を罪悪とするカトリック的価値観がベースにあるようにもとれる。
この母マリオンが、クリスティンにとって、もうひとつの“愛憎” の対象だ。いや、「もうひとつ」と書いたが、クリスティンが愛しながら憎んでいる地元サクラメントと、母マリオンは、ほぼ一体、マリオンがサクラメントであり、サクラメントがマリオンであり、クリスティンにとっては同一の存在だ。
退屈なサクラメントを飛び出して、ニューヨークの大学に行きたいクリスティン。地元での進学を主張するマリオン。家の経済状況を顧みず、お金のかかる東部の大学へ進むことは、質素倹約を旨とするカトリック的価値観に反することでもあり、娘を自分の元に置いておきたいという母の想いもあるだろう。
クリスティンはクリスティンで母の庇護から抜け出すことができない。感謝祭やプロムのドレスは、けっきょくマリオンと一緒に買いに行くのだ。しじゅう反抗しているくせに、元彼のダニー(ルーカス・ヘッジズ)にマリオンの悪口を言われると、必死に言い返す。選んだドレスをマリオンにダメ出しされると、「ママに好かれたい」「私のこと好き?」と、痛いくらいにむき出しの心をぶつけるクリスティン。
クリスティンは自ら「レディ・バード」と名乗り、周りの人にも自分をそう呼ぶよう求める。自分で自分に名前を付けるのは、自分の人生は自分で選び取るという意思表明だ。彼女が選び取りたいのは、サクラメントを離れ、マリオンのもとから巣立つことだ。サクラメント=マリオンなのだから、地元の大学への進学では、マリオンから巣立つことはできない。
補欠合格でかろうじてニューヨークの大学へ入学を果たしたクリスティンは、パーティで男子学生に名前を訊かれて「私はクリスティン」と応える。「レディ・バード」の名は彼女にはもう必要ない。それは巣立ちを成し遂げるための、自分自身への決意表明でもあったのだから。
エピグラフのJ・ディディオンは、サクラメント出身の作家でした。どんだけ郷土愛強いねん。
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