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映画『ジュリア(s)』~人生を決めるのは自分自身か、それとも偶然か。変転する運命と人生のかけがえのなさを、4つの並行世界を通して描いた感動作

配給会社サイトより

©WY PRODUCTIONS–MARS FILMS–SND-FRANCE 2 CINÉMA

2022年/フランス/PG12/120分
2023年日本公開
原題:Le tourbillon de la vie、英題:JULIA(s)
監督:オリバー・トレイナー
出演:ルー・ドゥ・ラージュ/ラファエル・ペルソナ/イザベル・カレ/グレゴリー・ガドゥボワ

映画『ジュリア(s)』ストーリー(あらすじ)

ピアノ工房を営む両親の期待を背負って、ジュリア(ルー・ドゥ・ラージュ)はピアニストを目指し、アムステルダムの音楽学校で寮生活を送っている。

1989年11月、ベルリンの壁が崩壊する様をニュース映像で見たジュリアは、寮の仲間とともに、長距離バスでベルリンを目指す。崩れゆく壁の前に置かれたピアノで演奏を披露したジュリアは、喝采を浴び、新聞の一面を飾るなど、注目を集める。

一方、パスポートが見つからず、ベルリン行きのバスに乗れなかったジュリアは、鬱々とした日々を送り、コンクールにも落選する。

そのときどきの選択、ちょっとした偶然など、運命のいたずらともいえるめぐりあわせで大きく変転し、枝分かれしていく、ジュリアの4通りの人生を描く。

映画『ジュリア(s)』レビュー(感想)

※ストーリー展開に触れています。

あらすじに、〈ジュリアの4通りの人生〉と書きましたが、この作品の配給会社のサイトに、〈4つの人生〉とあったから、そう記したのであって、実は映画のかなり早い段階で、いまスクリーンに映し出されているのがどのジュリアなのか、このジュリアはどのジュリアのその後なのかが、かなり怪しくなっていました。

髪型や髪の色、仕事やパートナーなどは、どのジュリアなのかを見分ける大きな手掛かりになるわけですが、
そのようなヒントがありながらも、ちゃんとそれぞれのジュリアさんの人生を追うことができていたか、まったく自信がありません。

そのほうが楽しめると思って、事前にあまり情報を入れておかなかったせいです。あらかじめ〈4つの人生〉だとわかっていれば、もう少し頭の中を整理しながら見られたのだと思います。

これからご覧になる方は、この作品で描かれるのは“4通りのジュリアの人生”なのだとしっかり覚えておいたほうがいいかもしれません。

そんなふうにじゃっかんの混乱をきたしながら見た『ジュリア(s)』でしたが、だから楽しめなかったかといえば、ブンブン(首を振る音)、まったくそんなことはありません。

ひとつしっかりと描かれていたなと思うのは、どんな人生も一筋縄ではいかないということ。ピアニストとして世界的な名声を博すことになるのはシューマン・コンクールに落ちたジュリアだったりして、不運や失敗に見えても、そのことが意外な未来に導いてくれたり、幸運(に見えること)が必ずしも幸福(これも見方によるけれど)につながっているとはかぎらなかったり。

どのジュリアも懸命に自分の人生を生きていて、望みが叶ったり、叶わなかったり、愛しい人、大切な人との出会いと別れがあり、誰かを傷つけたり、裏切られたりと、運命と呼ぶしかなさそうなものに翻弄されながらも、それでも自分自身で自分の道を歩んでいくことをあきらめない姿に、どの人生がいいとかわるいとかではない、すべてのジュリアの人生が唯一無二のものなのだと思わされたのでした。

並行世界といえば、第95回アカデミー賞で、作品賞、監督賞など7部門を独占した“エブエブ”こと『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』も並行世界(エブエブでの用語は“マルチバース”)をモチーフにしていました。

並行世界は小説や映画の中だけの絵空事、というわけではなく、理論物理学ではその存在が真剣に議論されている由。

でも、本当に並行世界があったとして、あっちの世界の自分と入れ替われるわけじゃなし。こっちの自分はあくまでこっちの自分なわけで、何の足しにも慰めにもなりゃあせんじゃろー。

ためしに、こっちの世界では叶わなかった恋を成就させ、楽しくやってる自分がどこかにいるかも、と想像してみると…。

あれ? 意外とちょっと救われた気分?

☟映画『ジュリア(s)』予告編

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