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映画『ブロードウェイとバスタブ』~「好きだ」「もっと知りたい」という情熱が、想像もしていなかった場所へと連れていってくれる

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2018年/アメリカ/87分
原題:Bathtubs Over Broadway
監督:デイヴァ・ホイゼナント
出演:スティーヴ・ヤング/デイヴィッド・レターマン/チタ・リヴェラ/マーティン・ショート/フローレンス・ヘンダーソン

映画『ブロードウェイとバスタブ』ストーリー(あらすじ)

放送作家として人気トーク番組『レイト・ショー・ウィズ・デイヴィッド・レターマン』の構成を手がけていたスティーヴ・ヤングは、番組のネタ集めで「企業ミュージカル」に出会う。1950~80年代にかけて、名だたる企業が社内研修のために制作していたミュージカルの、その奥深い世界に魅了されたスティーヴは、「企業ミュージカル」のレコード収集を開始、さらには楽曲の作曲者や、かつての出演者たちへの取材を開始するなど、活動を広げていく。

映画『ブロードウェイとバスタブ』レビュー(感想)

誰も見向きもしなかったものに着目し、長い時間をかけてコツコツと収集し、それを本などにまとめ上げて、その素晴らしさを世に知らしめる。意外なところに種を見つけて、最終的には仕事に結びつけているわけですが、ん? この構図、どこかで見たような…。そうだ、みうらじゅん先生だ!(勝手に先生と呼ばせていただきます。)

みうら先生は、「いやげ物」や「カスハガ」など、それまでは巷(ちまた)にただ漫然と存在していたものを、しこしこと収集し、深い愛と洞察による独自の解釈をふりかけて、書籍や各メディアで発表、一大ジャンルに育て上げた、斯界の偉人です。

ちなみに、「いやげ物」は、もらっても困る、嫌な土産物(みやげもの)。「カスハガ」は、どこがいいのかわからない、カスな絵ハガキのことで、「いやげ物」「カスハガ」というネーミングもみうら先生によるものです。

みうら先生の「いやげ物」や「カスハガ」が、このドキュメンタリー映画の登場人物、スティーヴ・ヤング氏の場合は「企業ミュージカル」だったわけです。

みうら先生はご自身の仕事術を『「ない仕事」の作り方』(文春文庫)というご著作で披露されていますが、先生は幼少のみぎりから、興味のあった仏像の写真やエッチなグラビアをスクラップされていたとのことで、まさに「栴檀は双葉より芳し」を地でいくような方です。

なにかを収集したり、研究したりして、それを最終的に「仕事」という果実に結びつけるには、結果を出したい(=本にしたいとか、有名になりたいとか)という欲望の前に、収集や研究の対象を「おもしろい」「大好きだ」「もっと知りたい」と思う情熱がなくては成し得ないことなのでしょう。

スティーヴ・ヤング氏にしても、企業ミュージカルのレコードを集め始めたのは20年以上も前のことらしく、『屋根の上のヴァイオリン弾き』『キャバレー』『シカゴ』といった有名なミュージカルの制作陣が関わっていたことを知って興味はさらに膨らみ、かつての関係者に取材をするようになり、彼らと交流を深め、一緒にイベントを行なうようにもなって、ついには本を出版し、この映画が制作され、それどころか映画の中で自身も歌ったり踊ったりという事態に至っているのです。

よっしゃ、何か変わったものでも集めて、本なんか出して、あわよくば映画だ…と、野望を抱こうにも、そもそも、その対象を見つけることさえ、簡単ではなさそうです。そのセンス、情熱、持久力。スティーヴ・ヤング氏もすごいが、本邦の先駆者にして、もはや他の追随を許さない境地にあらせられる、みうらじゅん先生のすごさを再認識させられる一本でした。

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