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映画『子供はわかってあげない』~十数年ぶりに再会した父と娘の濃密な夏休み

ⓒ2020「子供はわかってあげない」製作委員会 ⓒ田島列島/講談社

2020年/日本/PG12/138分
監督:沖田修一
脚本:ふじきみつ彦/沖田修一
原作:田島列島『子供はわかってあげない』(モーニングKC)
出演:上白石萌歌/細田佳央太/豊川悦司/千葉雄大/古館寛治/斉藤由貴/高橋源一郎/湯川ひな/坂口辰平/中島琴音/兵藤公美/品川徹/きたろう

映画『子供はわかってあげない』ストーリー(あらすじ)

高校2年生の朔田美波(上白石萌歌)はアニメ好きの水泳部員。美波は同じアニメが好きで意気投合した書道部の門司昭平(細田佳央太)の家で偶然、幼い頃に別れたきりの実の父親(豊川悦司)に関する手がかりを得る。昭平の兄(千葉雄大)の協力で、美波の父親は新興宗教の教祖だったことが判明。水泳部の夏合宿に行くふりをして美波は父親に会いに行く。

映画『子供はわかってあげない』レビュー(感想)

映画を見て→原作の漫画を読み→また映画を見ました。
漫画から映画にするにあたっての咀嚼力がすごいと思いました。

美波が夢中になっているアニメ『魔法左官少女バッファローKOTEKO』を本当に作り上げ(主題歌やDVDボックスセットまで)、カット割りも漫画のコマ割りをかなり忠実に再現していたり、セリフももとのセリフを最大限活かしていたり、原作にはないけど必要な要素をさらりと加えていたり。原作のあるものを映画化する際にはどんな作品でも行なわれていることだと思いますが、この映画はなんちゅーか(ほんちゅーか)その再現力が半端ないです。

まるで漫画がそのまま映画になったかのような違和感のなさ。最初に書いたように、私は映画を見てから原作漫画を読んだのですが、そういう場合、「どひーっ、映画と原作だいぶちがうじゃん」ということもありがち。この映画の場合は、「およ、(いい意味で)原作そのまんまじゃん!」となり、もう一度映画を見て、「いやー、ほんまに上手に映画にしてはるわー(←えらそー)」と感心しきり。

映画の上映時間はだいたい2時間前後というのが相場ですから、どうしても原作にあるエピソードの取捨選択という作業が必要になってくるのだと思われます。この映画では、原作にある“美波の父親が教団のお金を持ち逃げしたかも”という、わりと重要そうなエピソードが省かれています。

でもこれは、涙を呑んで捨てざるをえなかったというよりも、もしかしたら、意図的にこのエピソードを拾わなかったのかな、とも感じました。

というのも、この映画で沖田修一監督がいちばん描きたかったのは、“十数年ぶりに再会した父と娘の夏休み”だと思うから。

原作では美波に、“父親が本当にお金を持ち逃げしたのかを探る”というミッションが与えられているのですが、沖田監督は、そういうややこしいことなしに、父親と美波に“再会の夏の日々”を存分に味わってほしかったのではないかと。

なぜかって、水泳部の友人が早く合宿に合流するようにと電話で言ってくるたびに、美波は「なんかかわいそうで(父親を置いて合宿に行けない)」と答えるんですね。これはパラパラっと漫画をめくり直してみるに、原作にはないセリフなんです(見落としてなければ…)。

沖田監督は漫画を読んで、このかわいそうな父親をもう少しだけ幸せにしてあげたいと思ったのでしょうか。門司くんに「似てますね。朔田さんと」と言わせてトヨエツ(お父さん役です)にうれしそうな顔をさせてみたり(原作では門司くんは思うだけで言葉にはしない)、美波がトヨエツに水泳を教えたり(原作にはない)。監督は父親に原作よりもずいぶんと楽しい思いをさせています。

そして、美波と、美波にはどこか哀れに感じられるらしい父親の、かけがえのないひと夏の物語は、まるでその陽射しと暑さの中でともに数日を過ごしたような、ふだん心にひっかかっているあれやこれやが、その暑さのせいで蒸発してしまったような、ほっとするような、気持ちいいような、ちょっとくたびれたような、懐かしい感じの夏休みを再体験したような、そんな後味をもたらしてくれたのでした。

☟映画『子供はわかってあげない』予告編

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