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2014年/アメリカ/102分
2015年日本公開
原題:St.Vincent
監督・脚本:セオドア・メルフィ
出演:ビル・マーレイ/ジェイデン・リーベラー/メリッサ・マッカーシー/ナオミ・ワッツ/クリス・オダウド/テレンス・ハワード
映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』ストーリー(あらすじ)
お酒とギャンブルで借金まみれ、嫌われ者の不良老人ヴィンセント(ビル・マーレイ)の隣に、マギー(メリッサ・マッカーシー)とオリヴァー(ジェイデン・リーベラー)親子が引っ越してくる。離婚係争中のマギーは、ひ弱でいじめられっ子のオリヴァーを連れて、夫のもとを飛び出してきたのだ。放射線技師の仕事が忙しいマギーは、仕方なくオリヴァーのシッターをヴィンセントに頼むことになるが…。
映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』レビュー(感想)
不良じいさんが少年に、たくましく生きていく力を授ける。うすうすお察しのとおり、そういう映画です。
不良じいさんは、愛想はわるいし、評判もわるいが、実はとてもいい人。これもお察しのとおりです。不良じいさんが、見た目どおりに中身も悪人なら、映画になりません。
だいたい予想どおりの作品なら見なくてもいいか。こう思ったあなた。それは違います。いい映画というものは、察しがつこうが、思ったとおりの展開だろうが、面白いのです。
伏線も結末も、セリフさえも、すべてわかっていても、好きな映画は何度も見ますよね。意外な展開、意外な結末というものは、映画を見る楽しみのひとつではありますが、それほど重要なことではありません。逆に、「予測不能の展開!」「衝撃のラスト!」などと喧伝されていながら、クソつまらない…失礼、あまり面白くない映画のなんと多いことか。あ、私の講釈はもう十分ですか。そうですか…。
『ヴィンセントが教えてくれたこと』という邦題です。ヴィンセントは何を教えてくれたのか。それをはっきり書くのは野暮かもしれないのですが、最初に書いてしまっているので、もう一度書くと、人生を生き抜く術(すべ)のようなことかと思います。
それは「ノウハウ」とか「ハウツー」と言われるような類いのものではありません。ノウハウやハウツーで乗り越えられるほど、人生の荒波は“やわ”ではないのです。
ノウハウやハウツーではないのですから、言葉で伝えられることではありません。そもそも言葉で伝えられることには限界があると思います。言うだけで生き方を教えられるのなら、誰も苦労しやしません。あ、また講釈に走りそうに…。あいすみません。
なので、ヴィンセントはオリヴァーに、言葉であれこれ教えるわけではありません。もとより、ヴィンセントはオリヴァーに、何かを教えてやろうという気もないのです。子守を頼まれたから、仕方なく、お金のために、一緒にいるだけ。
一緒に競馬場に行き、一緒にバーに行き、一緒に認知症の妻のお見舞いに行く。いつもの自分の生活に、ただオリヴァーを同行させているだけ。
オリヴァーがいじめられているのを見て、ケンカの仕方を教えたりもしますが、それはまあ、オプションのようなもの。基本的には自分の生活をただ見せているだけで、とりつくろったりもしないし、相手が子どもだからといって態度を変えることもない。
あのじいさん、なんにもしてくれない、ロクでもないシッターだ、金返せとなってもおかしくないところですが、えらいもんでオリヴァー少年は、これでいろいろとヴィンセントから学んでしまう。しかもまぁまぁ楽しげに。
人生の早い段階で、生きていくための背骨のようなものをもらったオリヴァーくんもラッキーでしたが、ヴィンセントもラッキーです。もし相手がオリヴァー少年でなければ、子どもを賭け事や酒場に連れまわした最低最悪のシッターとして、わるい評判がひとつ増えただけになっていたかもしれません。
それどころかオリヴァー少年は、ヴィンセントという存在を、「自らの犠牲もいとわず、他人に尽くし、世界を良くしようと努める“聖人”」に昇華させてしまいます(原題のSt.Vincentはここからですね)。
なんでそんなことになるのか、「衝撃のラスト」(?)は本作を見てのお楽しみ。
あと、ヴィンセントとなんだかんだ助け合う、妊娠している娼婦役のナオミ・ワッツ。彼女が半分下りている店のシャッターを押し上げるシーンがあるのですが、思いっきりガニ股でよっこらせと押し上げるその姿がこれ以上ないくらい役になりきっていて、ナオミ・ワッツすげーと思いました。
☟映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』予告編