ⓒ2021「花束みたいな恋をした」製作委員会
2021年/日本/123分
監督:土井裕泰
脚本:坂本裕二
出演:菅田将暉/有村架純/オダギリジョー/戸田恵子/岩松了/小林薫/清原果耶/細田佳央太
『花束みたいな恋をした』ストーリー
同じ終電に乗り遅れたことから、偶然知り合った大学生の山音麦 (菅田将暉)と 八谷絹(有村架純)。映画や音楽、小説や漫画の趣味がぴったりと合ったふたりはあっという間に意気投合し、付き合うことに。やがて一緒に暮らし始めたふたりの関係は、ずっと変わらないはずだったが…
『花束みたいな恋をした』を見た理由
この映画を見てみようと思ったのは、脚本と監督がドラマ『カルテット』と同じ組み合わせだと知ったから。
『カルテット』といえば、視聴率はそこまでではなかったものの、一部のドラマ好きからかなり熱く支持された、なかば伝説的(といっても2017年放送)なドラマです。私も楽しみに見ていました(私が見るドラマは、なぜか視聴率が振るわないことが多い)。
脚本の坂本裕二さんは、あの『東京ラブストーリー』や、映画『世界の中心で、愛をさけぶ』(共同脚本)を手がけた脚本家で、近年の作品では、『最高の離婚』(2013年放送。近年?)というドラマも面白く見た覚えがあります。最近では『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年放送)とか。いい作品がいっぱいある脚本家です。
監督の土井裕泰さんは、『愛していると言ってくれ』(1995年放送)、『ビューティフルライフ』(2000年放送)、『空飛ぶ広報室』(2013年放送)、『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年放送)、『凪のお暇』(2019年放送)などの演出を手がけてこられた方で、こうして私自身が視聴してきた主な作品を並べただけでも、まあ、ずいぶんとお世話になっています。
ただ、『花束みたいな恋をした』という(かなりベタな)タイトルと、主演が現代の青春スター(セピア色の響き)、菅田将暉と有村架純ということから、アイドル映画っぽいノリの作品なのかなという先入観もあり、あまり注目はしていなかったのでした。
しかーし。脚本と監督が『カルテット』のコンビとわかれば、そりゃあ話は違ってこようというものです。
『花束みたいな恋をした』レビュー(感想)
※以降、ストーリー展開に触れています。
ひとことで言えば「切ない」映画でした。それに尽きます。
主人公の麦と絹の年頃(20歳過ぎくらいからの5年間が描かれている)よりも若い人には、この映画はどう見えるのか。「いつかあんな恋がしてみたい」なのか、「私だったら何があっても別れない」なのか…。そのへんは、正直よくわかりません。
麦と絹よりも上の世代がこの映画を見たら…。何を思い、何を感じるのか…。これについては、かなりのところまでわかる気がします。
かつて恋をして、その相手と別れた経験があるなら、この映画を見ながら、そうした恋愛を思い出さずにいるのは、無理です。不可能です。
恋愛の細部は麦と絹の場合とは違っていたとしても、このふたりのように同棲はしていなかったとしても、麦と絹の恋に共感しないでいるのは困難です。
そのくらい、この映画は若いときの恋愛の機微、誰にでも心当たりがありそうな、気持ちの動きの根っこの部分を、いかにもあるあるなエピソードとともに、丹念にすくいあげています。
見ているうちに、麦と絹と一緒に、もう一度つたない恋を生き直しているような、まるで自分が別れに少しずつ近づいていっているような、そんな気持ちになってしまうのです。
「もう別れればいいのに」と周りが思うくらいケンカが絶えなかったり、仲がわるそうに見えても、別れない人たちもいる。「あんなに気が合っていたのに」「何も別れなくてもいいのに」と思うようなふたりでも、別れることになる。
もっと修羅場になってもおかしくないのに、麦と絹が表面上はわりとたんたんと別れていくぶん、見ていてよけいにつらくなりました。
恋愛の行方は本人たちにはどうしようもない、運命の範疇なのだという気もします。たとえ別れることになったとしても、お互いを想い合った時間が確かにあったことだけは、まぎれもない真実。そんなことまで考えてしまいたくなる映画でした。
『花束みたいな恋をした』グッとくるシーン
ファミレスで別れ話の最中に、近くに座った大学生らしいカップルに、麦と絹がかつての自分たちの姿を重ねるシーン。切なすぎます(泣)。
書店で、好きな小説誌を手に取った絹が、麦のところへ行くときの、ちょこちょことした歩き方がぶちかわいい。有村架純はちょっとした仕草に愛らしくリアリティをのっけられる女優さんなのかもしれないですね。これまで出演作を見たことがないわけではなかったけれど、この作品で気になる女優さんのひとりになりました。
もう一度見たい映画のひとつに
脚本・坂本裕二、監督・土井裕泰。ドラマ『カルテット』と同じ組み合わせに魅かれた本作『花束みたいな恋をした』ですが、やっぱりさすがだと思わされました。若いふたりの恋物語を「自分にはもはや関係ないなー」なんて思うことなく、前のめりで最後まで。このコンビによる映画をもっとつくってほしいものです。
ひとつ気になることがあります。「初めて付き合ってそのまま結婚。いまもラブラブ」みたいなカップルは、どんな気持ちでこの映画を見るんだろうか。
ともあれ、もう一度見たい映画がまたひとつ増えました。
☟映画『花束みたいな恋をした』予告編