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映画『幸せなひとりぼっち』~スウェーデンの名匠ハンネス・ホルム監督が孤独と人生を描いたヒューマンドラマ

『幸せなひとりぼっち』公式サイトより

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2015年/スウェーデン/116分
2016年日本公開
原題:En man som heter Ove
監督・脚本:ハンネス・ホルム
原作:フレドリック・バックマン『幸せなひとりぼっち』(坂本あおい訳/早川文庫)
出演:ロルフ・ラスゴード/イーダ・エングヴォル/バハー・パール

『幸せなひとりぼっち』ストーリー(あらすじ)

偏屈で融通がきかないオーヴェ(ロルフ・ラスゴード)は近所で煙たがられている。半年前に妻ソーニャ(イーダ・エングヴォル)に先立たれ、40年以上勤めた職場をクビになったオーヴェは死ぬことを決意する。しかし、いざ死のうとすると、向かいに越してきたイラン人女性パルヴァネ(バハー・パール)とその家族にことごとく邪魔されるのだった。

『幸せなひとりぼっち』レビュー(感想)

本作は、主人公オーヴェがショッピングセンターで花を買うシーンで始まります。オーヴェは花束2つ用のクーポン券を差し出し、その半額で花束1つだけを買おうとします。店員にとがめられると「1束しか必要ない。2本で70クローナなら1本は35クローナではないか」と。この冒頭のシーンだけで、オーヴェがかなり偏屈な男だとわかります。

しかし次の墓参りのシーンを見ると、オーヴェは結局は花束を2つ買っています。主張はするが、それをゴリ押しする人間ではないのです。

花束の会計に並ぶ際に、順番抜かしをした女性に「待ちなさい。私が先頭だ」と注意もしていました。彼はただ正しいことを言っているだけなのです。

オーヴェはルールを守らない人間が許せません。「曲がったことが大嫌い」なのです。違法駐車や、ゴミの捨て方など、何かルール違反がないか自宅周辺をチェックして回るのが日課になっています。

ちょっとしたことが許せないオーヴェ。遊びのないハンドルが危険なように、周囲の人と衝突を繰り返します。こういう人が近所にいたら嫌ですよね。

最愛の妻に先立たれ、40年以上勤めた職場をクビになり、世間にも絶望しているオーヴェは何度も自殺を試みます。

しかし、そのつど邪魔が入ります。梯子を貸せ、病院に連れていけ、ヒーターを直してくれ、車の運転を教えてくれ、子どもを見ていてくれ、怪我をした野良ネコを飼え…。パルヴァネをはじめ、まわりの人々は様々なことをオーヴェに頼みます。オーヴェは、一度はきっぱりとはねつけるのですが、結局はすべて引き受けます。父親にゲイであることを告白して家を追い出された友人を泊めてくれという頼みまでも。

自殺が失敗するたびに妻の墓に行き、もうすぐそっちへ行くからと語りかけるオーヴェ。だが、人々の頼みごとが彼をこの世に引き留めます。彼は妻の墓に向かって言います。「これが片付いたらそっちへ行くから」と。

この物語からは、そうしようと思えば、いろいろな教訓が引き出せそうです。人は人に必要とされることが幸せだ。人はひとりでは生きていけない。ほかにもあるかもしれません。でも、この映画から、無理になにか教訓めいたものを引き出す必要もないという気もします。

オーヴェの筋の通った頑固さと、遠赤外線のようにほんのりじんわり伝わってくる優しさ、温かさ。そしてオーヴェの周囲の人々の、彼を見守る、包み込むようなまなざしと、オーヴェに対する信頼感。亡くなった妻ソーニャの美しさ、その教育に対する情熱。彼女をいまも愛しく、なによりも大切に想っているオーヴェ。

そんな物語をただ見ているだけでいつのまにか、固くなりかけていた心のどこかがゆっくりとほぐれていく。『幸せなひとりぼっち』はそんな味わいの映画です。

『幸せなひとりぼっち』グッとくるシーン

まずは、車の運転の練習中に、ほかの車にぶつけてしまい、弱音を吐くパルヴァネをオーヴェが本気で励ますシーン。「戦禍のイランからここまでたどり着き、2回も出産して次は3人目。車の運転くらい何でもないだろう!」。けっして優しい言い方ではありませんが、相手にとって必要なときに本当に必要なことを言う。オーヴェの人柄がよく表われているシーンです。

妻ソーニャとの回想シーンもグッときます。とくに出会った頃、ソーニャに借りていたお金を返そうとしたら、ソーニャから食事に誘われる場面。ソーニャの凜としたたたずまい。とまどいとよろこびがないまぜのオーヴェ。いまはつらい思いをしているオーヴェにもこんなに幸せな時間があったということになんだかほっとします。

パルヴァネの子どもたちとオーヴェが一緒にいるシーンもいい。無器用な接し方でもがっつりなつかれている様子に、一見とっつきにくいオーヴェの中心には人を安心させる温かいものがあるということがよく伝わってきます。

『幸せなひとりぼっち』がトム・ハンクス主演でリメイク決定!

本作『幸せなひとりぼっち』は先頃、トム・ハンクス主演でリメイクされることが発表されました。ハリウッドでリメイクされるのは名作の証し。トム・ハンクス主演とはいえ、オリジナル作品である本作がとても素晴らしいだけに、これを超えるのはなかなかハードルが高そう。はたしてどうなるか、トム・ハンクス主演作も本当に楽しみですが、この機会にオリジナルの『幸せなひとりぼっち』を見てみてはいかがでしょうか。この映画が見る人を幸せな気持ちにしてくれるのは間違いないと思います。

☟映画『幸せなひとりぼっち』予告編

シネマトゥデイより

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