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映画『ルビー・スパークス』~ファンタジーでありながら、誰にも身に覚えがありそうな、恋愛のリアルを突き付けるラブストーリー

映画『ルビー・スパークス』ポスター

            ⓒ2012 Twentieth Century Fox

2012年/アメリカ/PG12/104分
同年日本公開
原題:Ruby Sparks
監督:ジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス
脚本:ゾーイ・カザン
製作総指揮:ロバート・グラフ/ゾーイ・カザン/ポール・ダノ
出演:ポール・ダノ/ゾーイ・カザン/アネット・ベニング/アントニオ・バンデラス

映画『ルビー・スパークス』ストーリー(あらすじ)

若くして作家デビューしたカルヴィン(ポール・ダノ)は、“天才”の名をほしいままにしていたが、次の作品が書けずに苦しんでいた。そんななか、夢に現れた自分好みの女の子、ルビー・スパークス(ゾーイ・カザン)を主人公に小説を書き始めたカルヴィンは、ある日、愛犬スコッティの散歩中に、ルビーにそっくりの女の子に遭遇する。最初は何かの偶然かと思っていたカルヴィンだったが、ルビーのことを知れば知るほど、彼女は自分の小説から現実世界に抜け出してきた存在だと確信するに至る。ルビーにすっかり魅せられたカルヴィンは、小説を書くことも忘れて、彼女との日々にのめり込んでいく…。

映画『ルビー・スパークス』レビュー(感想)

甘い恋愛映画と思いきや、いい意味で裏切られる作品

※以降、ストーリー展開に触れています。

ヒロイン、ルビーを演じたゾーイ・カザン(おじいちゃんは『欲望という名の電車』『エデンの東』などで有名な映画監督エリア・カザン、おとうさんは脚本家であり監督でもあるニコラス・カザン)は脚本も手がけており、カルヴィンを演じたポール・ダノとは実生活でも恋人同士。それで小説に書いた理想の女の子が現実世界にあらわれるという設定とくれば、そりゃ多少のすったもんだはあるにしろ、こりゃかなり甘々のおのろけ恋愛ファンタジーを見せられることになるのでは、という危惧がなかったわけではない。「私たち、恋人同士なのよ。こんなふうに一緒に映画まで撮っちゃって。素敵なカレと、なによりめっちゃ可愛い私。二人のいちゃいちゃぶりをたっぷり楽しんでね♡」みたいな。

それでもこの映画を見ようと思ったのは、『リトル・ミス・サンシャイン』(2006年)のジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリスが監督を務めていたから。(両監督は夫婦でもある。そういえば本作で主演を務めるポール・ダノは『リトル・ミス・サンシャイン』にも出演していた。製作総指揮にも名を連ねるポール・ダノが本作にこの夫婦監督を推薦したのだろうか。)

実際に、おのろけ映画的な要素は少なからず(というか、たっぷりと)あった。にもかかわらず最後までこの映画を見通すことができたのは、そして、みなさんにこうしておすすめまでしているのは、脚本がよく出来ていたのか(映画一族の意地とDNAの力か)、はたまた両監督の演出力のたまものなのか、案外しっかりと考えさせられる映画になっていたからだ。

カルヴィンは、自分がつくり出したはずのルビーに捨てられそうになり、タイプライターを叩いて、ルビーのキャラクターを軌道修正しようと試みるも、今度はべったりとまとわりつかれてしまうなど、なかなかうまくいかない。

カルヴィンはルビーと連れ立って先輩作家の出版記念パーティに出かけるが、そこで元カノと再会してしまう。別れた理由をめぐってカルヴィンと元カノが言い争いをしているあいだに、ルビーはプールサイドで先輩作家に口説かれ、下着姿にされてしまう。それを見咎めたカルヴィンはルビーを家に連れ帰り、「なぜあんなことになったんだ」と責め立てる。そこでルビーがカルヴィンに返したのが「理想と違って悪かったわね」という言葉。これは、パーティで元カノがカルヴィンに投げつけた言葉とほぼ同じものだ。

カルヴィンは現実の存在である元カノとも、彼の創作した存在であるルビーとも、まったく同じように揉めているのだ。「思いどおりにならない」「理想と違う」。この映画を見て、人間関係のトラブルは、すべてここに集約されるのかもしれないと思わされた。相手に対する自分勝手な期待。そして落胆、怒り。会社の人間関係しかり、友人関係しかり、親子関係しかり。

恋愛は、がっつり二人が正面から向き合って、理想や期待を投げつけ合う関係だから、その期待→落胆の構図がわかりやすく顕在化しがちなんでしょうな。

「私はあなたの自由になんかならない」と叫ぶルビーに対して、彼女を思いどおりにしようとタイプライターを叩き続けるカルヴィン。壊れていくルビーを見ながら、カルヴィンが出した結論とは…。

本作は、相手をありのままに受け入れることでしか、愛は成就しないという寓話なのだろうか。しかし、期待や理想を抱くのが人間というもの。なかなか簡単なことではないですよね?

☟映画『ルビー・スパークス』予告編

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